【Case Study】孤立した正義を、信頼へ。24歳チーフの苦悩

「あの人はリーダーには向かない」 「今の実力では任せられない」 組織運営において、私たちはつい現状の成績や性格だけで、その人の限界を決めてしまいがちです。しかし、人の可能性は、適切な「仕組み」と「質の高い介入」によって、想像を絶する変容を遂げることがあります。

今回は、歯科医院でのプロジェクトにおいて、周囲から「イライラAさん」と言われた新卒3年目の若手スタッフが、いかにしてチームを支える立派なチーフへと成長したのか。その再構築の記録をお届けします。


「正義」という名の刃を振りかざす、24歳の孤独

ドクターを含む12名のマネジメントを担当することになったある歯科医院。 効率的な情報浸透とチーム力向上のため、私は現場の要となる「チーフ」を置くことにしました。

候補者たちは皆、真面目で契約率平均45%という安定した成績を出す優秀な層。しかし、私がその大役に選んだのは、皮肉にも「院内で最も成績が悪く、周囲との摩擦が絶えなかった24歳のAさん」でした。

当時の彼女は、自分の価値観こそが「正義」だと信じ込み、少しでも異なる動きをするスタッフに対し、露骨にイライラした感情をぶつけていました。院内は常にピリピリとした緊張感に包まれ、法人のマネージャーからも「彼女の怒りは周囲に伝染する。チーフなんてとんでもない」と猛反対を受けました

しかし、私は信じていました。「人は、正しい先導があれば、いつからでも、どこまでも成長できる」のだと。私は責任を持って彼女を育てることを約束し、荒波の中での抜擢を決めました。


露骨な反抗、繰り返される自問自答

案の定、船出は困難を極めました。 自分の価値観が許せない。思い通りにならない現実に、彼女は職場で物に当たり、私に対しても露骨に苛立ちをぶつけてくる日々。周囲からは「彼女のせいで雰囲気が悪化している」とがっかりするような報告が何度も届きました。

感情の波に飲み込まれそうな彼女に対し、粘り強く1on1(個別面談)を繰り返し、「感情は個人のものだが、プロジェクトの未来は組織のものだ」というプロフェッショナルとしての境界線を、言葉を尽くして伝え続けました。


感情を「仕組み」で整理する——3つのステップ

私が彼女に課したのは、精神論ではなく、非常に具体的な「行動のルール」でした。

  1. 「感情のデトックス」を分離する
     職場で感情を出すことを禁じる代わりに、イライラした時は必ず私に連絡し、そこで全てを吐き出すこと。
  2. 「不満」を「思考」へ昇華させる
     愚痴を話す時間を「10分間」と限定し、何に対して、なぜ腹が立ったのかを客観的に抽出させる訓練。
  3. 「相談」の構造を変える
    「どうすればいいですか?」という丸投げ(オープンクエスチョン)を禁止。必ず「自分はこう進めたいが、どうか」という自分の意見を添えるスタイルを徹底。

泥臭い対話の連続でしたが、彼女はこのルールを愚直に守り続けました。すると、彼女の「正義感」は、次第に「メンバーを支えるための尽力」へと形を変え始めたのです。


信頼を勝ち取った、新しいリーダーの姿

数ヶ月後、現場には驚くべき光景が広がっていました。 かつて彼女を恐れていたスタッフやプロジェクトメンバーが、次々と彼女を頼り、相談に訪れるようになっていたのです。

ルールの浸透を誰よりも徹底し、メンバーのために汗を流す彼女の姿は、もはや「正義を振りかざす人」ではなく、「信頼される立派なチーフ」そのものでした。

自分の壁を乗り越えるのに、早いも遅いもありません。 彼女を誰よりも尊敬しているのは、その凄まじい変容を一番近くで見守ってきた私自身です。


この経験から学んだのは、効率だけを追い求める組織運営では決して得られない、圧倒的な成長の喜びです。

自分を変えられるのは自分だけ。しかし、そのきっかけを作るのは、質の高いマネジメントと、信じて背中を押し続ける伴走者の存在です。 「今のメンバーでは力不足だ」と嘆く前に、その方の内側にある火種を見つけ、正しい方向へデザインできているか。

もし、貴院の組織でも「個人の性格」や「相性」で諦めかけている問題があるのなら、ぜひ一度、その構造を見直してみませんか。どんなに泥臭い変革であっても、その先には、何物にも代えがたい「強い組織」が待っています。

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